プロ集団が支える「チーム竹内智香」~JCA理事 友岡和彦

現在、2014年ソチオリンピック・アルペンスノーボード競技で銀メダルを獲得した、竹内智香選手のサポートを行っています。今年はW杯帯同も行い、2018年の平昌オリンピックで最高のパフォーマンスを発揮することを第一の目的と掲げ、フィジカルの強化を行ってきました。今回は竹内智香選手のサポート内容、そしてそのサポートを通してあらためて気づかされたことについてお話をしたいと思います。

▽平昌に向けたパワーアップ

2017年5月から平昌オリンピックに向けてフィジカル面でのサポートが始まりましたが、竹内選手は過去3年をかけて体力面の土台を作り上げており、今年の彼女からの要望は筋力とパワーをさらに向上させることでした。雪面にこれまで以上の力を加えることによって、その反力によって得られるターンのキレやスピードアップにつなげていくことが目的です。12月からW杯が始まるため、そこから逆算をして、解剖学的適応期、基礎筋力向上、最大筋力・パワー向上の各期間のトレーニングを行ってきました。1回のフィジカルトレーニングで2時間、そしてアップ、クールダウンを入れると1日に合計4時間近くをフィジカルトレーニングに費やしてきました。オリンピックイヤーということもあり、竹内選手はこの4時間以外でも、勝つために必要なことは全て取り組もうと、食事や睡眠時間に気を使うようにしています。ただし、ただ練習時間を多くすれば良いかといったらそうでもなく、「チーム竹内智香」として「やるべきこと」と「やる必要のないこと」をサポートに関わるスタッフがしっかりと認識した上で、方向性を打ち出しそれに向けて惜しまない努力をするようにしています。その結果、雪上トレーニングが始まる9月には筋力、パワーの向上が数値に飛躍的に現れ、落下する競技ではアドバンテージとなる体重の増量にも成功してきました。

▽科学を超えた「Art」の領域

しかし、レベルが上がれば上がるほど難しくなってくるのは、体力が向上したからといって必ずしも、パフォーマンスに結びつくとは限らないということです。その培った筋力やパワーを、選手それぞれがうまく競技動作に活用できるように、体に馴染ませる段階が必要になっていき、これは競技を問わずにあらゆるスポーツに共通することだと考えています。もしかすると、体の変化により一時的にパフォーマンスの低下を感じるかもしれません。そういったときに選手、コーチ、トレーナーのコミュニケーションが大切になります。選手たちは動作中に得られる「感覚」に繊細になり、自分の理想とする動作との差を埋める作業をしていく必要があるのです。そして、選手からのフィードバックを基にして、それを改善修正するためにはどのようなことをする必要があるかを考えなければならず、そこが科学だけでは取り扱うのが難しい領域で、コーチやトレーナー、それぞれが持ついわゆる「Art」の要素が必要とされる領域なのかもしれません。

▽環境作りとモチベーション

Artと書きましたが、その要素が最も大切になるのが、選手のポテンシャルを最大限に引き出すのに必要な環境づくりです。これは我々コーチが作り出していかなくてはいけないカルチャーだと思います。ただ、一方通行で強制的にやらされるのでは、練習の効果にも違いが現れ、特に動作を習得する場合には選手たちの集中の仕方によって、同じドリルを行っても差が生じてくるのです。つまり、選手たちが自主的に頑張れる環境を提供していかなければならいと思っています。やはり、自主的に頑張れる選手は強いです。そういった意味では、オリンピックイヤーに全てをかけている竹内智香選手は文字通り、自主的にきつい練習にもチャレンジをして、周りにいる人をも巻き込んで、応援させたくなる選手でもあります。オリンピックイヤーということも1つの環境要因であり、選手たちを頑張らせる1つの要因だと思います。選手たちを頑張らせる環境作りは1つだけでなく、またその要因となる環境が選手にとって違ってくるのも当然です。まずは、その選手のことを知ることから始め、どういった言葉がけや目標設定などが彼ら、彼女らのモチベーションを高めることになるかを考えることから始めなければいけないと思います。竹内選手の場合は簡単で、平昌オリンピックで金メダルを取ることでした。そして、それに必要だと思うことは全て自分の意思でやろうというのが彼女の姿勢でした。

▽常勝チームの雰囲気を

竹内選手のサポートチームは、技術コーチ、道具の手入れをするサービスマン、そしてトレーナーの3人から構成されており、スタッフは1つのゴールに向けて、お互いをリスペクトし合い、あくまでの自分の領域のスペシャリストとして行動して、しっかりとコミュニケーションの取れた分業化がなされていると思います。これが、自分の専門分野以外のことに口を挟んだ瞬間、様々な問題が起こるのは目に見えています。フィジカルコーチであって、スノーボードの素人である私が技術について、コーチとは別の角度から選手に助言したり、ボードに塗るワックスの選定を薦めたりすることは決してありません。チームとして機能させるためには、チーム内のスタッフを尊敬することから始めなくてはいけないと考えているからです。試合は、ある意味戦争に行くようなものです。4年かけて準備をして1回のチャンスしかありません。我々に課された使命は「試合で結果を出す」ことです。そのためには、チームが健全に機能しチーム一丸となって戦う必要があり、選手だけで頑張っているチームは結果につながらない場合が多くあります。いかに試合に出ないスタッフがモチベーションを保って頑張るか、そして、さらにチームスポーツであれば、試合に出ない選手たちがいかに意欲を持って練習や試合に望めるかに勝敗がかかっていると思います。まずは、試合に出る以外の全ての選手やスタッフが頑張れる雰囲気づくり、環境づくり、そしてカルチャーづくりをすることによって長期的に勝てるチームを構築できるのではないかと思っています。そこで、今回の「チーム竹内智香」でも私の役割はフィジカルの強化とともに、そういった常勝チームの雰囲気を蔓延させることでもあるかと思います。これから、チームとして竹内選手に対して最高のサポートを行っていきたいと思います。今年の竹内智香選手の活躍にご期待ください。

友岡和彦(ともおか・かずひこ)のプロフィール

JCA理事。1971年生まれ。95年に立教大学を卒業後渡米し、98年にフロリダ大学Exercise&Sports Science学科を卒業。99年からMLBフロリダ・マーリンズのストレングス&コンディショニングコーチを務め、01〜04年はモントリオール・エクスポズ、05〜08年はワシントン・ナショナルズでヘッドストレングス&コンディショニングコーチを務める。09年よりドームアスリートハウスでパフォーマンスディレクター兼ゼネラルマネージャーに就任し、多くのアスリートをサポートしている。