スパルタから自立への転換でつかんだ日本一(後編) =花咲徳栄高校野球部 岩井隆監督

今夏の第99回全国高校野球選手権大会で、甲子園初優勝を果たした花咲徳栄高校(埼玉)。前編では、岩井隆監督の指導方針がスパルタから自立へ変わるまでの経緯をうかがった。後編では、花咲徳栄の代名詞とも言える圧倒的な打撃力を中心に、岩井監督の野球論に迫る。

Q:「破壊力」について教えて下さい。東海大相模(神奈川)や作新学院(栃木)に敗れる中で、やり方を変える必要があると考えられたそうですが。

非常に運が良かった。我々が敗れたのは二つとも甲子園の優勝校だったのです。両チームとも、エースは後にドラフト1位でプロに行きました。150キロの投手です。それまでは、自分の中でスモールベースボールで行こうと決めていました。細かい野球が合うと思っていたのです。しかし、異次元のボールを投げるピッチャーに対して、細かい野球の限界を感じていました。スピード、技はあるのだから、そこに力を入れて、常に攻撃的な野球をしようと思いました。そんな矢先、発想の転換が起こったのです。それも、JCAで岩出さんから"破壊から創造へ"というキーワードを学んだことが大きく影響しています。

やり方を変えるのは、とても勇気のいることでした。なぜなら、今まで安定して勝っているのです。17年間、すべてベスト8に入っています。安定しているのにそれを壊してしまったら、もしかしたら1回戦負けするかもしれません。0になってしまうかもしれない。その怖さはありました。0になるか、ものすごくいいものができるか。それを考えた時に、覚悟を決めてリスクを取ることを決断したのです。

結局は自分が小さかったのだと思います。これまでは安定した勝ち方とか、守備型の負けない野球をやってきました。そこから脱却して、全国の頂点を目指さなければいけない時期になってきたのだと。そのためには、一発で試合を引っ繰り返せる破壊力をつける。なおかつ、相手に怖さを植えつける。その時点で相手より優位に立てますから。発想の転換というか覚悟でした。

Q:やり方を変えるとき、選手の様子はどうでしたか?

ある時、関東大会で慶應高校(神奈川)にコールド負けしました。「俺は間違っていたと思う」と選手に言いました。「細かい野球にこだわるのではなく、4、5点取られてもホームランで返せるようじゃなきゃ怖さがない。少々荒くなってもいいから、そういうことを取り入れていこう」と言った時に、選手の目つきが変わったのです。子どもたちはやっぱり打つのが好きだし、よしやるぞという雰囲気がはっきり見えました。選手の持っているパワーはすごい。やる気になった時は、指導者の想像を上回る、とてつもない力を発揮します。選手が変化するタイミングを見逃さないことだと思います。指導者をやっていて何がうれしいかというと、勝った時もそうですが、子どもたちが変わった時。その瞬間に立ち会えることが、最大の喜びです。なんとなく、こいつらやってくれるなという雰囲気がありました。

Q:今のお話は花咲徳栄のフルスイングにつながると思うのですが、思い切りの良さと自由にスイングすることを勘違いすると、失敗するとおっしゃっています。どういうことでしょうか?

状況に応じて攻撃は変える必要があります。決めた時にはフルスイングする。今はフルスイングして三振したほうがいいのか、粘られたほうが嫌なのか。選手が自立して、それを自分で考えられるようになったのです。相手の方がちょっと上だよねというときは、解放します。

策略ではないですが、よく打つと思われるので、四球も増えましたし。春の段階から、花咲は野球が変わった。そういうイメージ戦略でも優位に立てました。2、3点負けていてもまったく焦らなかったです。

Q:トレーニングについてはどのような方針ですか?

高校生活における活動期間が2年半しかない中で、下から作る余裕はないと思っています。即効性がある方がいいと考えました。バッターであれば、バットに近いところから訓練した方がいいと。当然、下半身の練習も行いますが、重きを置いたのは握力、手首、肘です。即効性がある練習は何かと考えて、綱登りやハンマーでタイヤを叩く練習などを行っています。これは手首や握力を鍛えるのにとても効果的です。

ただし、他の学校が急にハンマーに取り組んでも、きっと失敗するでしょう。結局、僕が行ってきた野球は命中率なのです。いかにバットの芯に当てるかということをすごく強調して行ってきました。ヒットじゃなくてもいいから、とにかくボールを芯で捉える。そこに握力が強くなって、リストが強くなって、ボールが飛ぶようになった。みなさん、それを破壊力と呼ぶのですが、まずはバットコントロールありきです。もともと鍛えられたバットコントロールにパワーが加わったので、打てるようになった。そうじゃなきゃ、毎回ピッチャーが違う中であの打率は残りません。遠くに飛ばせ、遠くに飛ばせとアホみたいにやったわけじゃなくて、そういう積み重ねがあるのです。

Q:練習中にファウルを打った選手に対して檄を飛ばされていますが、どのような理由からですか?

来るボールが分かっているのに、ファウルを打つのはおかしいです。芯に当たるまで続ければいい。それが訓練です。うちの練習ではゲージを置きません。ファウルをほとんど打ちませんから。前に打てばいいのです。ファウルが多い試合はだいたい負けています。追い込まれてしまうのですから。

投手が投げる球は、ストレートか変化球で確率は5割。追い込まれてから打ったヒットは奇跡です。天才ですよ。みんなイチロー選手じゃないのですから、追い込まれたら簡単には打てない。だって、何が来るか分からないのですから。

Q:よく、「来た球を無心で打つ」と言われますが。

それは嘘だと思います。直球か変化球か予測して、予想が当たればヒットが打てるというのが私の考え方です。私が理想とするのはヒットが続くことであり、ヤマを張ったボールが来れば、ヒットがずっと続くということを目指しています。データ分析などはかなり緻密にやっていますが、破壊力のベースになっているのはあくまで命中率です。

Q:最後の質問です。今年は全国優勝という最高の結果を出されましたが、この先勝ち続けていく、今年の良い文化をチームに根付かせるために何をしていこうと考えていますか?

そこは自分の中でも課題になっています。連覇できるチームはうちしかありません。しかし、単純に連覇といいますが、選手も変わりますしそんなに単純じゃない。いったい、どこに向かっていけばいいのか。達成感も出てしまっていますし。そこで考えるのは、まだそこまでの実力がないのに、生徒に高い要求をしてもぶっ壊れてしまうということです。やっぱりまずは一番低い山を目指して、もう一度登り始めた方がいいと思っています。一番低い山とは、甲子園に出場することです。そこを目指してやっていきたいです。今年は1人しかレギュラーが残っていません。もう一度、一歩一歩地道にやっていかなきゃいけないでしょう。

我々はいくらでもお金をかけていいよ、選手を取ってくるよという学校ではありません。子どもたちは授業にもちゃんと出席しますし、監督も学校の活動を行います。ご覧の通り、設備がすごいわけでもありません。我々が勝つことによって、公立高校さんも含めて良いモデルになるのではないかと思っています。